猿軍団39――夜明けは近い!――

 ここは大阪のとある山。この山には僕を含めて三十九匹の猿が住んでいた。この山には木の実がたくさんあり、僕らは何不自由ない生活を送っていた。

 

 しかし、ある日、台風でその木は全部折れてしまったのだ。

僕はボスザルの子分的な存在。まだ生まれたばかりだが、自然界で(人間界でも)生き残るには目上の存在に媚びておくの鉄則だ。

「ボス、どないするんですか」

「うるせぇ!猿吉、お前も考えろ!」

僕はいい知恵が出なかったため、仲間全員で集会を開くことにした。近くにいた仲間に声を掛けるだけだったので、集会はすぐに執り行えた。

 ボスザルがみんなを見渡し、咳払いした。

「お前ら、木の実がなくなったで」

そんなことはわかりきっている。

「ええか。他の食べ物を探すんや」

みんなはざわついた。木の実のほかに食べ物があるのだろうかと。すると、誰かが言った。

「でも、他の食べ物もたいしてあらしまへんで」

「うーん。よし、ほな人間の食べ物を奪うしかないちゅうこっちゃ」

「え、そないなことして、罰当たるんとちゃいますか」

「アホ。この際しゃーない。賛成のもんは手ぇ挙げい」

大半の猿は手を挙げた。

「まあ、数が多いにせよ、少ないにせよ、わいの独断で決めんねんけどな」

 こうして、僕らは自然界から人間界に行くことになったのだ。山から町まではそんなに遠くなかったが、僕たちは腹が減っていたので、歩くのが遅くなってしまった。

 

町へ着くと、僕たちはまず土産物屋に入り、たくさんのものを食い荒らした。でも、僕だけはビールのとりこになってしまい、ビールばかり飲んでいた。

 次の日も、また次の日も僕らは同じようなことを繰り返していた。

 そんなことがあって、店員はとても怒り、僕たちと戦うことを決意した。

 僕らが来ると、店員は空砲の鉄砲で脅かしたりした。

 

僕たちもこれには困り、ある夜、ビルの屋上で集会を開いた。ボスザルはいつものようにみんなの前に立った。

「諸君、あの武器が恐ろしいもんか、そうとちゃうんか、調べたほうがええ」

「賛成」

ボスザルは数匹の猿を集めて、「君たちは猿軍団第一スパイチームだ!」と唆して、夜の店に忍び込ませたのだ。

 驚いたことに、スパイチームは鉄砲を盗むことに成功したのだ。

 戻った猿たちはみんなに激励され、ボスザルに鉄砲を取り上げられた。

「こら何や?どないしたら音が出るんやさっぱりわからへんな」

すると、ボスザルはいじっているうちに、撃鉄を引いてしまったのだ。爆竹のような物凄い音が辺りに広がった。僕らは地面にうずくまり、震えていた。

「あー、びっくりしたなぁ」

うずくまっていた猿たちが、顔を上げ始めた。ボスザルは爆発音で異様に興奮している様子だった。

「痺れるぜ、この音」そう言ってボスザルは立ち上がった。

「こいつはええ!この音で人間を騙すことができるかもしれんわ」

「これで、何をどないするっちゅうんです?」

「ええか。こいつを店の外で鳴らすやろ。そしたら店員が飛び出してくる。ほな、他の連中がその隙に、いろいろ盗むいうこっちゃ」

ボスザルは俺天才!とでも言いたげに、みんなを見下すような姿勢をとった。

「さっすがあんちゃん!」

「よ、日本一!」

「夜明けは近いよ!」

みんなは、とりあえず煽てていれば、ボスザルの機嫌を損ねないだろうという魂胆だった。

「大統領、社長、専務、部長!」

「おいおい、どんどんランクが下がってきてるじゃねぇか」

「あはは、すんません」

 

 次の朝、僕らは作戦を実行すべく、土産物屋の前に行った。ボスザルは鉄砲を他の猿に貸すのが惜しいため、自分が裏へまわって、鉄砲を撃ったのだった。

 凄まじい破裂音がしたため、土産物屋の主人は大急ぎで裏へ行った。案の定、その時にはボスザルは逃げていたが・・・・・・。仕方なく店に戻った主人は、一陣の風の如く荒らされた店内を見て嘆いた。

「畜生!なんで俺んとこの店ばかりなんだ!」

しかし、主人は鉄砲を撃ったのが猿だとは思わなかったのだ。人間は固定観念に縛られすぎていて、猿が鉄砲を使うという発想ができないのだ。

 その時、僕らはマンションの屋上で、盗んできたものを食べていた。

「結構簡単でしたな」

「せやな。あの店員のマヌケな顔、思い出しただけでも笑いがこみ上げてくるわい!わはははは・・・・・・」

僕らはたこ焼きや、饅頭を両手に、大はしゃぎしていた。

 

 そして月日は流れ、とうとう五年が経った。

 五年間僕らは、いろいろな方法で人間から食料を騙し取っていたのだった。猿の中には一匹、人間の言葉を覚えた猿がいた。言うまでもない。僕、猿吉だ。僕はボスザルの右腕となり、次のボスザルは猿吉だ!と囁かれていたのだ。

 今日も僕は民家にこっそり侵入して、テレビをつけた。これは、人間の情報を得るためのボスザルからの命令だ。

「ほー」

その日のニュースは、日本がモスクワに大型ミサイルを発射した。日本はもちろん、ミスだと主張した。しかし、戦争勃発の可能性がある、というものだった。

 僕は急いでボスザルのところに戻った。

「大変です。近々戦争が起こるらしいですわ」

「なにぃ!それはマジな話か!」

「はい。マジな話です」

「うーん。それはやばいな」

「どないするんですか」

「せや!人間から、またなんか奪うっちゅうのはどや?」

「せやけど、何を」

「えっと・・・・・・。ええい!まず他の奴らを呼んで来るんや」

「へ、へい」

 僕は急いで他の猿たちを呼んできた。

「ボス、戦争勃発ちゅうのはほんまでっか」

みんなは慌てた様子だった。無理もない。

「ほんまや」ボスザルは静かに言った。彼らは慌てて泣き出した。

「怖いよー」

「助けてー」

「かあちゃーん」

ボスザルは怒って、「黙れ!今は生き延びる方法を、考えなあかんのとちゃうんか!」と言った。ボスザルのこの言葉に、みんなは、はっと気づかされた。

「せや、あんちゃんの言うとおりや!」

「しっかりせなあかん!」

みんなは真剣に考えた。その時誰かが、

「空を飛べたら、逃げられるんやけどな」と呟いた。

「せや!それや!」

ボスザルは手を叩きゲッツをした。

「何言ってはるんですか。冗談ですよね」

「冗談やない!」

ボスザルの物凄い剣幕に、僕らは圧倒された。

「前に猿吉が言っとったが、新型のスペースシャトルがあるそうや。そこの基地はここからそないに遠くない。人間を騙してスペースシャトルをのっとろうや。人間騙しは、わいらの十八番やろ!」

僕らはボスザルの意見に賛成し、立ち上がった。

「いっちょ、やったろうやないか!」

「おお!俺たちは永遠不滅の猿軍団39や!」

僕らは声をそろえて言った。

「猿軍団!永遠不滅の39!猿軍団!永遠不滅の39!・・・・・・」

ボスザルは涙をこらえながら言った。

「・・・・・・み、みんな、ほんまにありがとう。わいは絶対その期待を裏切らん。だからみんな、ついて来てくれや」

僕らはボスザルの目を見た。言葉がなくても、三十九匹全員の心はひとつだった。

 次の朝、僕らはスペースシャトル打ち上げ基地へと向かった。

 

 まず、僕とボスザルはマシンガン(勿論、エアーガン)を片手に観光バスのハイジャックを試みた。

 駐車場に停めてあったバスに乗っていたのは、修学旅行に来ていた高校生たちだった。

早速僕らは中へ入った。するとなぜか高校生たちは大はしゃぎだった。

「うひょー、マジかっけぇ!」

「なにあれ、なんかのサプライズ?」

「野生?養殖?」

高校生たちは、突然の猿の登場に心を躍らせたようだった。だが、はしゃいでいられるのは今のうちだけだ!

「貴様ら!わめいてんじゃねえ!命が惜しけりゃ、さっさと降りろや!」

バスの中は、急に静まり返った。

「さあ、とっとと失せろ!クズ野郎!」

すると、勇気ある男子生徒が、

「言われなくても、今から降りて道頓堀に行くんだよ」と言った。しかし、僕は鼻であざけり笑った。

「ふん、なら都合がいい。おい、そこの!何してやがる!」

それは、先生らしい中年の女性が、携帯電話でどこかへ連絡しているところだった。

「ひ、ひぃぃっ」

「それをよこしな!」

先生は生徒たちを伝って、携帯電話を僕に渡した。僕は携帯電話を真っ二つに割った。テロリストは良心というものを完全に閉め出さなければいけないのだ。先生のプライドはずたずただ。

「さあ、失せろ!」

半泣きの先生を先頭に高校生たちは、慌てて降りていった。

「ふん、ザコが!」

僕は捨て台詞を吐くのを忘れなかった。ボスザルは僕を見て、引きつった笑みを浮かべた。

「おい猿吉、大丈夫か」

「ああん?」

「えっ」

「あ、間違えたゼ」

僕は満面の笑みを浮かべてしまった。ボスザルは『こやつ、なかなかやるな』と思ったのだろう、目が一瞬輝いた。その時、僕は運転手がまだ残っていることを発見した。

「てめぇはなんだ?あ、言ってみろや!」

僕は座席を思いっきり蹴った。

「え、あ、はい。すいません」

運転手は漫画みたいに、バスの外へすっ飛んでいった。

「やれやれ、さあみんな乗れ!」

すると、どこからともなく仲間の猿たちが集まってきた。バスに乗り込むときにボスザルは点呼をしていた。

「ようし、全員そろったな」

その時、座席の後ろのほうから声がした。

「ボスちょっと」

「なんや」

「座席が足りません」

「補助席出すとかなんとかしろ」

「ういーっす」

猿たちは補助席を出し、そこに座ったり下にもぐりこんだりした。彼らはふたり分の座席をひとり分だと勘違いしたようだ。僕はボスザルが座った運転席の横の手すりを握った。

「ほな、飛ばしていくでぇ!」

ボスザルは扉の開閉ボタンを押した。

「猿吉、地図見てくれや」

「うっす」

ボスザルは近くにいた大きめの一匹に声を掛けた。

「ちょいと、アクセル頼むで」

「うっす」

ブレーキはどうした、ブレーキは?猿は運転席の下にもぐりこみ、アクセルを思いっきり押した。

「わっ」

バスは急発進し、近くにあった乗用車を跳ね飛ばした。

「こりゃ、おもろいわ」

ボスザルはハンドルを回し、駐車場を出た。

「おい、どっちや」

「右です」

「あいよ!」

バスは大通りへ出た。その時僕は、ボスザルが怪しげな笑みを浮かべたのを見逃さなかった。

「・・・・・・アクセル、全開にしろや」

そう呟いた瞬間、バスは時速二百五十キロのスピードを出した。

「きゃー」

座席でくつろいでいた猿たちは大喜びだ。ボスザルもテンションがマックスまであがってしまった。

「わっしょーい!大阪ど根性やぁぁぁ!」

モンスターと化した観光バスは、他の乗用車を次々とひっくり返していった。

「ははははははははははははははははははははははははははは」

ボスザルは正気を失い、アホみたいに(というかアホ)、他の車にわざわざ当たった。バスがひっくり返らなかったのは、大型だったおかげだろう。

「ボス、バスが壊れちゃいますよ!」

「ははははははははははははははははははははははははははは」

その時、高速道路の入り口が見えた。

「あ、そこ右でっせ」

正気を失ったはずのボスザルは、なぜか方向だけは聞き逃さず、高速道路に入った。

「――ETCカードを挿入してください――」

付属の機会がアナウンスした。

「ああ?知るかよ!」

バスはETC専用ゲートを、時速二百五十キロで突っ込んだ。案の定、ゲートのストッパーは見るも無残な姿になった。ボスザルはしばらく笑っていたが、笑い疲れたようで、笑いがやっと収まった。

「やっと正気になったんですね」

「わいは、どないな時でも冷静沈着。天上天下唯我独尊」

僕はボスザルの意味不明なコメントに、大阪つっこみ魂を無理やり静めた。

「おい。で、道はこれであっとるんか?」

「はい。逆走している事を除けば」

「ああ。やから、さっきから他の車と衝突してんのやな」

「はい」

ボスザルは何の問題もないように、顔の前で手を振った。

「まあええ、まあええ。で、あとどのくらいや」

「このスピードなら、もうそろそろ出口のはずですわ。あ、あれあれ」

僕はゲートを指差した。

「おう」

バスは入り口(僕らにとったら出口)のゲートに突っ込んだ。

「おい、なんか焦げ臭ぁないか」

「そうですか?きっとぶつかりすぎで、どっかがいかれたんでしょう」

「せやな」

高速道路の入り口を出ると、田んぼの向こうにスペースシャトルが見えた。ボスザルは、もちろん最短ルートの田んぼを通ってそこへ向かった。

 着いた時、バスはパンクしていて、正面は壊滅的な状態になっていた。僕らは外へ出た。

「熱き男のバトルを繰り広げた証や」

ボスザルは、バスをぽんぽん叩きながらしみじみ言った。僕は、一方的にやっただけじゃねーか!と思ったが、つっこむとボスザルが不機嫌になるので、やめておいた。

「さあ、時間がない。もうすぐ打ち上げや、急げ!」

「うっす」

僕らは基地の中へ入っていった。

 基地の中は冷房がガンガンに効いていて、僕らは心を和ませた。

「みんな、こんなところにおったら、人間たちに存在がばれてまう。上の通気口に隠れるんや」

ボスザルは憩いの時間を潰したのだ。

「ええー」

「ごちゃごちゃ言うな。今までの努力が水の泡になるかも知れへんねんぞ」

「ういーっす」

僕らは通気口に入った。

「せ、狭いし暑い」

「仕方ないやろ猿吉。せや、お前が人間騙してこいや」

「マジすか」

「ったりめーよ」

僕は仕方なく、廊下へ降りてスペースシャトルの入り口へ向かって走り出した。

 

 スペースシャトルの打ち上げの時が、刻一刻と近づいてきていた。

 僕がスペースシャトルの入り口まで来たときにはもう、乗組員が中にいた。

「どうしよう」

だが、ここまで来れば行くしかない。僕は持ち前のチャレンジ精神で、一世一代の大勝負を挑んだ。

「大変です。スペースシャトルの故障が発見されました。今すぐ降りてください」

僕は大きな声でそう言った。

「なに、それは大変だ」

中から乗組員が出てきた。僕はさっと消火器の後ろに身を隠した。乗組員がいなくなったのを確認すると、僕は天井の通気口を見あげた。

「おーい、今なら乗り込めるぞ」

すると、通気口の蓋が開いて三十八匹の猿たちが一斉に出てきた。ボスザルは僕の前に立つと肩をぽんぽん叩いた。

「でかしたぞ。さあ、乗り込むで!」

 みんなはスペースシャトルへ乗り込んだ。すると、自動的にドッキングが解除され、滑走路のようなところへ行った。そこで、左右に鉄柱があるところへセットされた。

 そして、一分もしないうちに、打ち上げのカウントダウンが始まった。

「10、9、8、7、6、5、4、3、2、1、0」

スペースシャトルは見事宇宙へ飛び立った。

 大阪の町が小さくなって見えたとき、僕らはミサイルが飛んでいるのを見た。次の瞬間、ミサイルは爆発し大阪全体が火の海に飲み込まれた。

「・・・・・・もしかして、核ミサイルやったんとちゃうか」

核ミサイルの影響は、遥か空の上にいる、僕らのところには届かなかった。

「とうとう戦争が始まったんやな」

僕らは地球に手を振った。

「ほな、さいなら。わいらが戻ってくるときには、木の実がたくさんありますように」と。

 

 僕らが宇宙へ行ったことは、人間たちに知る術はなかった。それから、人類は、核戦争と新型ウイルスの影響で百年の間に絶滅した。

 しかし、地球にとっての百年でも、宇宙へ行った僕らにとっては十年くらいだ。十年たったとき、僕らは地球へ戻ってみることにした。ちなみに毎日、ボスザルの命令で欠かさず筋トレをしていた。これは地球へ戻ったときのブランクを、できるだけ小さくするためだった。

 何ヵ月かして、地球が見えた。僕ら三十九匹は大喜びだ。今では、ボスザルは歳をとっていて、動きも鈍くなっていた。

 スペースシャトルは引き寄せられるようにして、地球に落ちていった。僕らは着陸のしかたがわからなかったため、重力で勝手に海へ落ちた。

 スペースシャトルは、物凄い音をたて、粉々になった。

 僕らは海へ弾き飛ばされた。海は冷たく、きれいな水色をしていた。

「みんな、大丈夫か」

みんな、泳ぎは心得ていたのと、浅瀬だったため無事だった。

「お、あれ、島とちゃうか!」

一匹の猿が陸地を発見した。しかし、僕らは死に物狂いで、陸地を目指して泳がざるを得なかった。なぜなら、後ろからサメが追いかけてきたからだ。サメは体力が衰えた、かつてのボスザルに目をつけた。サメはぐんぐん彼に追いついた。僕は他の仲間を先に行かせ、彼のところに向かった。

「今助ける!」

「猿吉、もういい。先に行け」

彼は無理やり笑顔を作って見せた。だが、僕は彼を見捨てることができなかった。何かないか。サメを倒す方法は・・・・・・。その時、足元にあの時のエアーガンがあるのを発見した。どうにか届きそうだ。

 僕はエアーガンを拾い、サメに向かって撃鉄を引いた。弾は見事にサメの鰓に挟まった。驚いたサメは、もがきながら逃げていった。

「大丈夫か」

「ありがとう猿吉。お前の知恵にはいつも驚かされてたんや・・・・・・やけど、わいはもうだめや・・・・・・これからはお前がみんなを導いてくれや」

ボスザルは力尽きた。

僕はボスザルを運び、砂浜に着いた。みんなは僕を見て笑顔になったが、ボスザルが生きていないとわかると、顔から一気に血の気が引いていった。

「そんな・・・・・・嘘やろ」

みんなはボスザルに覆いかぶさるようにして泣いた。

 僕は立ち尽くすしかなかった。その時、仲間の一匹が僕の肩にそっと手を置いた。

「猿吉、今日からお前がボスや。みんなもそれを望んでいるで」

みんなは僕の顔を見つめた。僕もみんなの顔を見つめた。みんなはうなずいた。

「決まりやな。頑張れよ」

「ああ、ありがとう」

僕は涙をこらえた。ボスザルが死んだ悲しみと、新しいボスとして生きるプレッシャー。言葉にできない複雑な気持ちがした。

 これから僕は、この土地で生きていくのだ。危険な土地だ。サメ、ワニ、ドクガエルなどがうようよいる。だが、ボスザルとしての誇りを持ち、戦う人生も悪くない。

 僕らは水を求め、南に向かった。東から太陽が、僕らをやさしく照らしてくれた。

壊れかけた看板には、『メルボルン』という文字が刻まれていた。

 

                                      (完)